母がドラマを見ながら
「ああ、この子は“じょうおうの教室”に出てた子やね」
と言ったので
「“じょうおう”じゃなくて“じょおう”でしょう」
と正した。
女には「じょ」という読みしか無いのであって、「じょう」という発音は間違いである。
雰囲気を「ふいんき」と言っても通じるのと同じで、通じるけれど間違いであるという主張をしたのだが、彼女には分からなかったようだ。
最後には弟までも巻き込んで「じょうおうって言うよね?」と確認しだした。
たとえ「じょうおう」と言おうが言うまいが関係ないのである。「じょおう」が正しいのであって、「じょうおう」は日常において伝わるだけの意味不明な単語であるという主張がしたいのだ。
雰囲気は「ふんいき」であって、「ふいんき」ではないが、大体の人間は「ふいんき」と発音して、それを聞いた人間は「雰囲気」に脳内変換しているだろう―――そういうレベルで話をしていたのである。
しかしどうやら彼女にはそれが伝わらないらしい。
「“じょうおう”と言うか言わざるか」で話を進めたがる。前述の通り問題はそこではない。俺も数年前までは「じょうおう」と言っていたし、「じょうおう」と言われても「じょおう」の事であるなんて事は理解出来る。
問題はそれが実は間違いであるのだよ、という指摘なのである。
大体において彼女は自分の間違いを認めたがらないのである。俺はただ「私は何も知らずに言ってたけど、そんな真実があるのね」というセリフを聞きたいがために彼女に話を持ちかけるのに、彼女は全くそのセリフを吐かないがために俺達の議論は長くなる。彼女の頭脳の低級さが無駄に話を長くしていると言っていいだろう。
さらにそこへ尚更馬鹿な父親が加わってくる。
「学校は“がっこう”で通ってるじゃないか。“がくこう”って言わないだろう」などと言う。
お前は黙っていろ。「がく」と「こう」は、か行の重なりがもどかしいから音便になってるんだ。お前の主張は俺の言ってる事と全く軸が重なっていない。
体育を「たいく」って言うだろ、と言うならまだ分かる。だが学校は違う。「欠点」だとか「ばったり」だとかじゃないんだよ。お前は口を出したいだけの阿呆だ。黙っていろ。
挙句に「もっと素直になれ」だと。
何が素直だ。俺は素直に疑問と主張をぶつけているだけだ。
お前の言う「素直」は「文法的用法と現実的発音の不整合を受け入れる事」ではなく、「俺の言う事を聞いておけ」という意味でしかない。
ふざけるな。
絶対に俺の勝てない分野でお前に立ち向かおうとするならともかく、誰でも考える疑問をぶつけるのになぜお前の言う事をただ聞くという選択肢を選ばねばならんのか。
俺は独りの人間であって、お前と同じく考える脳を持っているのだ。それを上から強制的に押さえつけるなど言語道断。許されるべくも無い。
そうやって場違いな発言を繰り返しありもしない圧力をかけようとするから、お前はどこに行っても馴染めずに消えていくのだ。
その助言さえも聞き届けないお前の傲慢がお前の身を腐らせている。愚かな男だ。
「今の私の発言の中で何が“素直”じゃなかったか教えていただけますか? どこが素直じゃないのかよく分からないので。
音便の問題ではなく、“ふいんきを雰囲気と脳内変換してしまう不思議”について議論していますので、あなたの発言は的外れです。
この場にあなたはゲストとして呼んでませんから、出来ればバカな発言で場に割り込むのはやめて下さい。迷惑です」
俺は俺と対等な者として、自分の主張をしてやった。あいつは応えられずに黙っていた。俺の勝利である。
バカはしゃべるな。消えてろ。
女王は「じょおう」か「じょうおう」か
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