2005年 02月 03日
3日 |
登場人物紹介。
蒼龍……主人公。サファイアの鱗を持つ龍に変身することが出来る。
太一……蒼龍の相棒。
白龍……水晶の鱗を持つ龍。
碧龍……エメラルドの鱗を持つ龍。
おやっさん……ラーメン屋の主人。
タヌキ……おやっさんのラーメン屋に出入りしているタヌキ。基本は人型。
カナ子……カナブン師匠の弟子。秘められた強さを持つ。
カナブン師匠……五代目カナブン。強い。
見たことがある景色だった。以前の夢で来たところだ。蒼龍は以前と同じく屋敷の一階のひさしにあたる場所に立って、青々とした芝生を見下ろしていた。
大きな屋敷だ。上等なかわらはいつ来てものっぺりと黒光りしている。
「なぁ」
後ろを警戒していた太一が声をかけた。
「なんだ?」
「この屋敷の広さ、尋常じゃねぇよな?」
「そうだな……」
「悪い予想なんだが、ヤクザ屋さんなんじゃねぇのか?」
蒼龍が振り返った。
「俺もそう思う」
「やべぇよ。早く逃げよう」
「そうだな。俺も好きでこんなところに来たわけじゃないしな」
ひさし部分を戻りながら、蒼龍は坂本金八に無理やり運転させられたエクストレイルを思い出していた。後部座席から無言で指示を出す金八はとてもいい教師と呼べるものではなかった。まさにヤクザ屋さんのようだった。
その金八は、エクストレイルが川を越えこの屋敷に侵入した時点でどこかへと消えていた。生徒を置き去りにするとは、最低な教師だ。
その後一階のひさし部分に上ってきて初めて、ここが以前に来たことのある場所だと気付いたのだった。
前を歩いていた太一が足を止めた。視線の先を見るとドスを構えた「若いの」が、乗り捨てたエクストレイルの周りで警戒をしていた。
「ピンチだなぁ……」
「でも行くしかないだろ」
蒼龍は言うが早いかかわらを蹴って飛び降り「若いの」へと襲い掛かった。突然の出現に対応しきれなかった「若いの」はドスを一度振るっただけであっさりと倒されてしまった。
蒼龍は倒れた「若いの」のドスを奪い、懐を探って拳銃まで手に入れた。
「お前のそういうとこ、感心するよ」
太一はつぶやくとかわらから飛び降りた。
二人が屋敷を出ようとしたその時、門の向こうから坂本金八が現れた。顔は険しく、手には猟銃のようなものを装備している。どう見ても敵だ。どうやら「金八先生、実はヤクザ。」という事らしい。
踵を返して庭へと駆け出した二人だったが、行く先にまたしても「若いの」が現れた。さきほどの奴よりも格上のようだ。スーツの仕立てが違う。
二人は川の方へ進路を変えた。進路を変更しながら蒼龍が放った一発が見事「若いの」の額に穴をあけた。
川と庭を隔てる高い塀を飛び越えると同時に、蒼龍が体をくねらせたかと思うと一頭の龍へと変身した。見事な青灰色をした鱗を持つ龍だ。
太一がその背にまたがり塀を越え、二人は屋敷から逃げ出した。
太一を安全なところに降ろし空を漂っていた蒼龍は遥か前方に友人の碧龍を見つけた。もう一頭の龍と戦っているようだ。碧龍は防御と回避で戦闘を拒否しているようにも見えた。普段温厚な彼らしかった。
しかしよく目を凝らしてみて蒼龍は焦った。碧龍と戦っているその一頭は水晶の鱗を持つ龍、白龍だったからだ。白龍は残忍非道を極める龍で今まで数多の龍が理由無しに殺されている。碧龍の戦いは劣勢に追い込まれたものの動きだったのだ。
碧龍が白龍の隙を利用して逃走した。白龍がすかさずそれを追う。
残念な事に蒼龍から離れている。蒼龍は体を震わせ空を駆け出すと一気に最高速へと達した。
蒼龍は未だ空を駆けていた。ところどころで戦闘があった気配を感じるものの、距離は付かず離れずと行った状態だった。
碧龍は空を駆ける技術に関しては随一だ。それを追う白龍も負けていない。蒼龍はやや格下なので、二人を追うのは体力が要った。
体力には自信があったものの、さすがにそれも底をつきはじめた。ふらふらとして高さを維持できず、ついに民家の屋根に倒れこんでしまった。
隣家の芝生は手入れこそされているが、最初の屋敷ほど上等なものではないな。
そんな事を考えながら寝そべっていると声が響いた。
『何してるんですか?』
蒼龍は驚いた。龍の状態では普通の人間にはこの姿は見られないはずだ。
見ればけちをつけた芝生に少女が立ってこちらを見ている。
『何してるんですか?』
もう一度声が響いた。さらに驚いたのは、声は頭に直接届いているらしいという事だった。
『疲れたから休んでいるんだ』
試しに彼女へ向けて思考してみた。彼女から『疲れた?』と返事が返ってきた。成功だ。
『そうだ。……なぁ君、悪いが少し力をくれないか』
『力? どうするんですか?』
『心に隙間を作ってくれれば、後はこっちがやる。少し気持ち悪くなるかもしれないが、頼む。急いで追いかけなきゃいけない人がいるんだ』
『……いいですよ』
蒼龍が少女の心から力を吸い出すのに苦労は無かった。
『君は凄いな。そんなに完璧な心の制御が出来る人間は見たことがない』
少女は無言だった。力を取られると急激に脱力状態になるのでそのせいだと蒼龍は思った。
『力は一晩寝れば回復するはずだ。―――ありがとう』
言って蒼龍は体を震わせた。屋根を打って飛びたち、頭をめぐらせる。西に太陽が沈みかけている。南にはそれと似たような燐光が見える。龍の気だ。蒼龍は駆け出した。
『頑張って』という少女の声が聞こえたような気がした。
気付いた時には目の前に鳥居があり、そこに体をしたたかに打ち付けて蒼龍は意識を失った。
(思えば前もこんなところに来た気がするが……)
急速に遅く薄れていく意識でそれだけを思った。
少女からもらった力は驚くほど蒼龍になじんでくれた。だが人間の心から得たくらいの量では到底足りず、蒼龍はまたしても力尽きようとしていたのだった。どんどん高度が下がっていき、天をも支えると言われる大鳥居にぶつかっていた。
鳥居の足元に落ちてきて、龍の姿さえも維持できなくなった蒼龍が人の姿に戻った頃、ひょっこりとタヌキが現れた。赤い腹掛けに三度笠というタヌキ然としたタヌキだ。
「あんれまぁ。でげぇ音がしだど思えば蒼龍ちゃんでねぇの。また来たのけぇ。いつもいつもこんなに弱っでぇ」
強い訛りで独りごちるとひょいと抱えて歩いていく。行き先はちょっと先のラーメン屋、「稲荷」である。
タヌキに抱えられていく「稲荷」。不安だ。
「おやっさん、ラーメンづぐってやってぐんねぇが?」
扉を開けるなり大声でタヌキが言った。
「おう、……また蒼龍か。何してんだコイツぁ」
ラーメン屋の親父は心底あきれたような、それでいて仕方ねぇなというような不思議な顔でカウンターの奥を指差した。
「そこ座れ。人間はいねぇから」
「あいよぉ」
どかっ、と荷物のように一番奥の席に蒼龍を置いて、タヌキはその横に座った。
雰囲気のあるいい店でラーメンの味も上々だが、この店が満席になっているという事はない。いや、満席にはなっているが、<人で埋まっている事も、「人以外」で埋まっている事も>ない。人の座っている席に人以外は座れないし、人以外が座っている席に人は近寄らないからだ。だから「どちら側も」微妙に空席の状況が続く。
店の喧騒とラーメンのコクのある香りが効いたのか蒼龍が目を覚ました。
「目ぇ覚ましたか。もうちょっとで出来るから、また寝るなよ」
「……寝てたんじゃない……。……気絶してたんだよ」
蒼龍はまだ弱った声で反論した。親父はにやりと笑って
「知ってるよ。お前、気絶した状態以外でうちにこねぇのか?」
「俺だって好きで気絶してるわけじゃない」
「でぇ、今日はなし稲荷様にぶつかっただ?」
「タヌキが『稲荷様』ってのは変だと思うんだが……」
タヌキが口を開きかけたとき、二人の前にラーメンが出された。香りたつスープと見た目にもおいしそうな具や麺が意識を占領する。
蒼龍は早速がつがつと食べはじめ、タヌキも余計な事を話すのをやめた。
暫くはラーメンを食べる音だけがして、二杯目のスープが飲み干されたところでやっと落ち着いた。
「碧龍が白龍に襲われてたんだ。行かなきゃならない」
「だぁどもおめぇ、いくら「稲荷」のラーメン食べでもその体では無理だべぇ」
「無理は承知だ」
「行っても助けられんだろうよ、その体じゃ。いくらお前の鼻がいいとはいえ、もうどこに行ったかもわかるまい? それに……白龍相手じゃもう―――」
ダンっ、とカウンターを叩いて蒼龍が立ち上がった。
「俺は行く。碧龍を連れて来てやるよ、気絶せずにな。代金はその時水晶で払ってやる」
それだけを叩きつけるように言うと乱暴に扉を閉めて出て行った。
「熱いなぁ。あいつは」
「それがいいどこだぁ」
「そうだな。……で?」
「ん?」
「お前は代金を何で払うんだ? もちろん、木の葉以外だよな」
タヌキは苦笑した。
タヌキが親父に言いくるめられ、蒼龍を助けて一緒に水晶を持って帰ってくる事で話が付き、タヌキも帰った後のこと。
「間違いなく六代目カナブンです!!」
カウンターの中央ほどで少女が力説している。少し前に庭で蒼龍に力を与えたあの少女である。一時的に減った力を回復しにラーメンを食べに来ていたのだ。
それを胡散くさそうな顔で聞いているのは太一だ。
「だからさー。わかんねぇだろ? 六代目かどうかは。カナ子の師匠かもしれねぇじゃん」
「そんなことありません!!」
「何でだよ。何でそこまで断言できるんだ?」
「だって……」
少女―――カナ子はうつむいた。下唇をかんでいる。太一はただそれを見つめていた。
「だって……五代目は死んでるんですよ。私が殺したんですから」
次回!! 衝撃の最終回!! 「カナブンは、闇夜の誘蛾灯に散る―――」 お楽しみに!!
そんな夢を見た。
蒼龍……主人公。サファイアの鱗を持つ龍に変身することが出来る。
太一……蒼龍の相棒。
白龍……水晶の鱗を持つ龍。
碧龍……エメラルドの鱗を持つ龍。
おやっさん……ラーメン屋の主人。
タヌキ……おやっさんのラーメン屋に出入りしているタヌキ。基本は人型。
カナ子……カナブン師匠の弟子。秘められた強さを持つ。
カナブン師匠……五代目カナブン。強い。
見たことがある景色だった。以前の夢で来たところだ。蒼龍は以前と同じく屋敷の一階のひさしにあたる場所に立って、青々とした芝生を見下ろしていた。
大きな屋敷だ。上等なかわらはいつ来てものっぺりと黒光りしている。
「なぁ」
後ろを警戒していた太一が声をかけた。
「なんだ?」
「この屋敷の広さ、尋常じゃねぇよな?」
「そうだな……」
「悪い予想なんだが、ヤクザ屋さんなんじゃねぇのか?」
蒼龍が振り返った。
「俺もそう思う」
「やべぇよ。早く逃げよう」
「そうだな。俺も好きでこんなところに来たわけじゃないしな」
ひさし部分を戻りながら、蒼龍は坂本金八に無理やり運転させられたエクストレイルを思い出していた。後部座席から無言で指示を出す金八はとてもいい教師と呼べるものではなかった。まさにヤクザ屋さんのようだった。
その金八は、エクストレイルが川を越えこの屋敷に侵入した時点でどこかへと消えていた。生徒を置き去りにするとは、最低な教師だ。
その後一階のひさし部分に上ってきて初めて、ここが以前に来たことのある場所だと気付いたのだった。
前を歩いていた太一が足を止めた。視線の先を見るとドスを構えた「若いの」が、乗り捨てたエクストレイルの周りで警戒をしていた。
「ピンチだなぁ……」
「でも行くしかないだろ」
蒼龍は言うが早いかかわらを蹴って飛び降り「若いの」へと襲い掛かった。突然の出現に対応しきれなかった「若いの」はドスを一度振るっただけであっさりと倒されてしまった。
蒼龍は倒れた「若いの」のドスを奪い、懐を探って拳銃まで手に入れた。
「お前のそういうとこ、感心するよ」
太一はつぶやくとかわらから飛び降りた。
二人が屋敷を出ようとしたその時、門の向こうから坂本金八が現れた。顔は険しく、手には猟銃のようなものを装備している。どう見ても敵だ。どうやら「金八先生、実はヤクザ。」という事らしい。
踵を返して庭へと駆け出した二人だったが、行く先にまたしても「若いの」が現れた。さきほどの奴よりも格上のようだ。スーツの仕立てが違う。
二人は川の方へ進路を変えた。進路を変更しながら蒼龍が放った一発が見事「若いの」の額に穴をあけた。
川と庭を隔てる高い塀を飛び越えると同時に、蒼龍が体をくねらせたかと思うと一頭の龍へと変身した。見事な青灰色をした鱗を持つ龍だ。
太一がその背にまたがり塀を越え、二人は屋敷から逃げ出した。
太一を安全なところに降ろし空を漂っていた蒼龍は遥か前方に友人の碧龍を見つけた。もう一頭の龍と戦っているようだ。碧龍は防御と回避で戦闘を拒否しているようにも見えた。普段温厚な彼らしかった。
しかしよく目を凝らしてみて蒼龍は焦った。碧龍と戦っているその一頭は水晶の鱗を持つ龍、白龍だったからだ。白龍は残忍非道を極める龍で今まで数多の龍が理由無しに殺されている。碧龍の戦いは劣勢に追い込まれたものの動きだったのだ。
碧龍が白龍の隙を利用して逃走した。白龍がすかさずそれを追う。
残念な事に蒼龍から離れている。蒼龍は体を震わせ空を駆け出すと一気に最高速へと達した。
蒼龍は未だ空を駆けていた。ところどころで戦闘があった気配を感じるものの、距離は付かず離れずと行った状態だった。
碧龍は空を駆ける技術に関しては随一だ。それを追う白龍も負けていない。蒼龍はやや格下なので、二人を追うのは体力が要った。
体力には自信があったものの、さすがにそれも底をつきはじめた。ふらふらとして高さを維持できず、ついに民家の屋根に倒れこんでしまった。
隣家の芝生は手入れこそされているが、最初の屋敷ほど上等なものではないな。
そんな事を考えながら寝そべっていると声が響いた。
『何してるんですか?』
蒼龍は驚いた。龍の状態では普通の人間にはこの姿は見られないはずだ。
見ればけちをつけた芝生に少女が立ってこちらを見ている。
『何してるんですか?』
もう一度声が響いた。さらに驚いたのは、声は頭に直接届いているらしいという事だった。
『疲れたから休んでいるんだ』
試しに彼女へ向けて思考してみた。彼女から『疲れた?』と返事が返ってきた。成功だ。
『そうだ。……なぁ君、悪いが少し力をくれないか』
『力? どうするんですか?』
『心に隙間を作ってくれれば、後はこっちがやる。少し気持ち悪くなるかもしれないが、頼む。急いで追いかけなきゃいけない人がいるんだ』
『……いいですよ』
蒼龍が少女の心から力を吸い出すのに苦労は無かった。
『君は凄いな。そんなに完璧な心の制御が出来る人間は見たことがない』
少女は無言だった。力を取られると急激に脱力状態になるのでそのせいだと蒼龍は思った。
『力は一晩寝れば回復するはずだ。―――ありがとう』
言って蒼龍は体を震わせた。屋根を打って飛びたち、頭をめぐらせる。西に太陽が沈みかけている。南にはそれと似たような燐光が見える。龍の気だ。蒼龍は駆け出した。
『頑張って』という少女の声が聞こえたような気がした。
気付いた時には目の前に鳥居があり、そこに体をしたたかに打ち付けて蒼龍は意識を失った。
(思えば前もこんなところに来た気がするが……)
急速に遅く薄れていく意識でそれだけを思った。
少女からもらった力は驚くほど蒼龍になじんでくれた。だが人間の心から得たくらいの量では到底足りず、蒼龍はまたしても力尽きようとしていたのだった。どんどん高度が下がっていき、天をも支えると言われる大鳥居にぶつかっていた。
鳥居の足元に落ちてきて、龍の姿さえも維持できなくなった蒼龍が人の姿に戻った頃、ひょっこりとタヌキが現れた。赤い腹掛けに三度笠というタヌキ然としたタヌキだ。
「あんれまぁ。でげぇ音がしだど思えば蒼龍ちゃんでねぇの。また来たのけぇ。いつもいつもこんなに弱っでぇ」
強い訛りで独りごちるとひょいと抱えて歩いていく。行き先はちょっと先のラーメン屋、「稲荷」である。
タヌキに抱えられていく「稲荷」。不安だ。
「おやっさん、ラーメンづぐってやってぐんねぇが?」
扉を開けるなり大声でタヌキが言った。
「おう、……また蒼龍か。何してんだコイツぁ」
ラーメン屋の親父は心底あきれたような、それでいて仕方ねぇなというような不思議な顔でカウンターの奥を指差した。
「そこ座れ。人間はいねぇから」
「あいよぉ」
どかっ、と荷物のように一番奥の席に蒼龍を置いて、タヌキはその横に座った。
雰囲気のあるいい店でラーメンの味も上々だが、この店が満席になっているという事はない。いや、満席にはなっているが、<人で埋まっている事も、「人以外」で埋まっている事も>ない。人の座っている席に人以外は座れないし、人以外が座っている席に人は近寄らないからだ。だから「どちら側も」微妙に空席の状況が続く。
店の喧騒とラーメンのコクのある香りが効いたのか蒼龍が目を覚ました。
「目ぇ覚ましたか。もうちょっとで出来るから、また寝るなよ」
「……寝てたんじゃない……。……気絶してたんだよ」
蒼龍はまだ弱った声で反論した。親父はにやりと笑って
「知ってるよ。お前、気絶した状態以外でうちにこねぇのか?」
「俺だって好きで気絶してるわけじゃない」
「でぇ、今日はなし稲荷様にぶつかっただ?」
「タヌキが『稲荷様』ってのは変だと思うんだが……」
タヌキが口を開きかけたとき、二人の前にラーメンが出された。香りたつスープと見た目にもおいしそうな具や麺が意識を占領する。
蒼龍は早速がつがつと食べはじめ、タヌキも余計な事を話すのをやめた。
暫くはラーメンを食べる音だけがして、二杯目のスープが飲み干されたところでやっと落ち着いた。
「碧龍が白龍に襲われてたんだ。行かなきゃならない」
「だぁどもおめぇ、いくら「稲荷」のラーメン食べでもその体では無理だべぇ」
「無理は承知だ」
「行っても助けられんだろうよ、その体じゃ。いくらお前の鼻がいいとはいえ、もうどこに行ったかもわかるまい? それに……白龍相手じゃもう―――」
ダンっ、とカウンターを叩いて蒼龍が立ち上がった。
「俺は行く。碧龍を連れて来てやるよ、気絶せずにな。代金はその時水晶で払ってやる」
それだけを叩きつけるように言うと乱暴に扉を閉めて出て行った。
「熱いなぁ。あいつは」
「それがいいどこだぁ」
「そうだな。……で?」
「ん?」
「お前は代金を何で払うんだ? もちろん、木の葉以外だよな」
タヌキは苦笑した。
タヌキが親父に言いくるめられ、蒼龍を助けて一緒に水晶を持って帰ってくる事で話が付き、タヌキも帰った後のこと。
「間違いなく六代目カナブンです!!」
カウンターの中央ほどで少女が力説している。少し前に庭で蒼龍に力を与えたあの少女である。一時的に減った力を回復しにラーメンを食べに来ていたのだ。
それを胡散くさそうな顔で聞いているのは太一だ。
「だからさー。わかんねぇだろ? 六代目かどうかは。カナ子の師匠かもしれねぇじゃん」
「そんなことありません!!」
「何でだよ。何でそこまで断言できるんだ?」
「だって……」
少女―――カナ子はうつむいた。下唇をかんでいる。太一はただそれを見つめていた。
「だって……五代目は死んでるんですよ。私が殺したんですから」
次回!! 衝撃の最終回!! 「カナブンは、闇夜の誘蛾灯に散る―――」 お楽しみに!!
そんな夢を見た。
by embryo_3
| 2005-02-03 11:30
| 夢