2004年 11月 10日
10日 |
場所はロンドン。
一人の爺さんが死んでしまった婆さんにもう一度だけ会いたいと俺のところへやってきた。
死んだ魂のありかは分かっているといって爺さんは地図を広げた。
俺の家から西へずっと進むと、ありかである城に着くらしい。
俺達はさっそくカーナビを頼りにそこへ向かった。
カーナビ画面ではさらに西に城があるのだが、そこは断崖絶壁。ここから先には行けそうも無い。
「城は空の上にあります。空飛ぶ車を調達しましょう」
と爺さん。先に言え。
そんな事を突っ込んでも仕方ないので俺達は来た道を引き返し、俺の家から東にあるスクラップ場へと赴いた。
俺達と言うのは、俺と俺の助手であるウェンディとジョンとマイケルである。
ロンドンの空を飛ぶのにピーターパンの登場人物を連れて行くのは一流のしゃれであると取ってもいいのだろうか。
スクラップ場に着いた俺達は古びたタクシーに乗り込んだ。
カーナビの目的地を城にセットしてウェンディが操縦を始めた。
飛ぶまでは助走がいるという爺さんの話で、加速できる道まで出てきた。
T字路の下からぐんぐんと加速を始めるタクシー。
「飛べ!! 飛べ!!」
と俺達は期待のこもった声で叫んでいた。
突き当たりの教会にぶつかろうかというその瞬間、俺達を乗せたタクシーはふわりと中に浮いた。
「おぉ、浮いたぞオイ」
「とりあえず右にハンドル切れ、危ないから!!」
教会のステンドグラスをぶち割りそうになるのをハンドルを切って交わした。
タクシーの操縦はいたって簡単だった。
オートマのギアみたいな物があって、下は1、上は4の表示だった。1は前進しない代わりに上昇が大きく、4は上昇しない代わりに前進が大きい。
それ以外は普通の車と同じ。右にハンドルを切れば右に曲がり、左にハンドルを切れば左に曲がる。
4まであげるとゆっくり下降しながら前進するので、適度にギアチェンジしながら高度を保っていさえすれば良かった。
「ロンドンは霧の町なんていわれてるけど、一定の高さのところに集まってるだけで、それを越したらむしろ快晴なのね」
などと上機嫌で運転しながらウェンディが言うと、徐々に下がっていた高度がちょうど霧の中になった。
霧の中に黒いものが現れ、どんどん密度を増していった。
「あ、現れたな、デス!!」
「デスって何だよ」
「あれが婆さんを連れて行ってしまった死神です」
爺さんは相変わらず顔をゆがませている。
「お前達が空を飛べたところで、我が城には近づけないのだよ」
言ってデスは去っていった。
デスの出現でおびえてしまったウェンディに代わって俺が操縦することになった。
しかしなかなか巧くいかない。電線に引っかかったり建物にこすったりしてしまう。
「兄ちゃん、ちょっと高度落として運転しなよ」
「慣れるまではそれがいいでしょうな」
「道路走ってる車のナンバーが見られるくらいの高さでいいんじゃないの?」
などと助手、爺さんが口々に言う。
「お前らな、これでナンバーが“D・E・A・T・H”とかだったらどうするんだよ」
(イギリスのナンバーは英字と数字の七桁です)
「それは嫌だ」
「だろ」
俺は自分の運転技術の下手さをごまかすためにそんな事をいった。
西の果てについていざ空を飛んでいくと、カーナビの画面がくるくる回る。
それにまどわされてハンドルを切ると、断崖の切っ先に戻ってきてしまう。
カーナビの画面は見てもいいが、ハンドルは固定したまま動かさないのが辿り着くための秘訣のようだ。
俺はハンドルをしっかり固定したままアクセルを踏み込んだ。車は順調に城に向かっていく。
するとカーナビの画面で、シューティングゲームで撃墜された時のように自車を表す三角が爆発し、気づくと切っ先に止まっていた。
「おいおい、なんだこりゃ」
「どうやらまだ不完全なようですね」
「全く……。どうすりゃいいんだ。一旦帰るか」
そこへ本物のタクシーが現れた。老夫婦を乗せたそのタクシーは俺達を抜かしたところで反対車線からバスがやってきたために止まってしまった。
俺達とタクシーの間が開いていないのでバスが通れないようだ。俺達か、タクシーかどちらかがバックして道を譲らないといけない。
どうせ俺達はかえる気だったので、道を譲るつもりでバックさせた。
すると後部座席から老夫婦がタクシーを降りた。黒い割烹着のようなものを着た夫婦は仲良く手をつなぎ、そのバスに乗り込んでいった。
見ればバスの中には同じような格好をした男女が乗ってた。黒い割烹着みたいなものを着ているせいで、その下にどんな格好をしているかはよく分からなかった。しかし、男はスーツ、女は普段着のような感じがした。色は黒っぽいものが多いようだった。
老夫婦を乗せたバスは横道にそれると断崖を下っていった。
俺達はおんぼろタクシーを降りた。小雨が降っていた。
「どうなってんだ?」
「あのバスに乗るためにここまできたって事?」
「あのバスはどこ行ったんだ?」
みな一様に首をかしげた。
「……城かな?」
ジョンが言った。
「あっ!!」
俺はひらめいた。
「何!?」
「喪服!! 違うな、死んでるんだから死装束だ!! あいつらは死んだ魂だ! だから黒い服で、現世の職業を隠す意味で服隠してたんだよ!!」
「なるほど、と言う事は我々も死装束を用意すれば……」
「でも死装束であのバスに乗らなきゃだめなんでしょ? 格好だけでごまかせるかな?」
鋭い指摘に一瞬沈黙が流れた。
ジョンが大声で叫んだ。
「霊柩車!!」みなが彼を見た。
「霊柩車だよ。霊柩車なら生きた人間も死んだ人間も乗ってるでしょ!!」
ジョンは杖を振り回して力説した。
「そうか、直接城に行ってもおかしくないな」
「って事は……このタクシーは霊柩車になるのか?」
見ると後部座席の天井は可変式らしく、中から押すと霊柩車っぽくなった。
「なるじゃん!!」
「あとは塗装だけだね」
俺達は塗装屋へと走りだした。
塗装屋が左手に見えてきた。
なぜか爺さんと俺以外が女になり、人数も10人にまで増えていた仲間が車の中で喜ぶと、塗装屋から黒ずくめの格好をした男達が出てきた。
「まずいな、どうやらもう手が回ってるらしい」
「どうしたらいいの?」
「仕方ない。ここはやりすごそう」
言っているそばから4人の女が塗装屋に走っていった。
「どうする!?」
「とりあえず車は走らせろ!」
「あの子達を見捨てるわけ!?」
「今全員捕まるよりましだろうが!! この場で騒ぎを起こすわけにはいかないんだ!!」
「でも……!!」
そんなやりとりの中でも車はゆっくりと塗装屋を離れていく。
後ろを振り返るとフラダンスを踊っている集団が歩道を歩いていた。その後ろで男達から逃げようとしてる仲間も見えた。
俺達の間には重い空気が流れた。
と、車をノックする女がいた。見た目はアジア系だ。
「開けるな!! 今は何事にも警戒が……」
やはり言っているそばから助手席の女がドアを開けた。
「)(’UYHJO"PK#LKE=O?」
「は?」
「)IUB#NOIKJ)U(HGIJKE?」
しきりにパンフレットを見せて何事かを言っている。中国語のようだ。
「何でもいいから早くドアを閉めろ!!」
女がドアを閉めるとフランダンスの集団が車に追いついてきた。
今度はその集団にドアをノックされる。
「無視するんだ。…っておい!?」
フラダンスの集団に女が4人まぎれていた。当然仲間だ。
ドアを開けさせて入るように指示する。
2人は何とか入ってきたが、残りの二人は手を振っている。
「何だよ!! 入ってこい!!」
「行ってって言ってるんだよ」
「ふざんけんな!! まだ間に合う!! 入れ!!」
女は目に涙を浮かべながら手を振り続けた。
距離があいてからも、さっき入ってきた2人はうつむいたままだった。俺達も何も喋らなかった。
そんな夢。
一人の爺さんが死んでしまった婆さんにもう一度だけ会いたいと俺のところへやってきた。
死んだ魂のありかは分かっているといって爺さんは地図を広げた。
俺の家から西へずっと進むと、ありかである城に着くらしい。
俺達はさっそくカーナビを頼りにそこへ向かった。
カーナビ画面ではさらに西に城があるのだが、そこは断崖絶壁。ここから先には行けそうも無い。
「城は空の上にあります。空飛ぶ車を調達しましょう」
と爺さん。先に言え。
そんな事を突っ込んでも仕方ないので俺達は来た道を引き返し、俺の家から東にあるスクラップ場へと赴いた。
俺達と言うのは、俺と俺の助手であるウェンディとジョンとマイケルである。
ロンドンの空を飛ぶのにピーターパンの登場人物を連れて行くのは一流のしゃれであると取ってもいいのだろうか。
スクラップ場に着いた俺達は古びたタクシーに乗り込んだ。
カーナビの目的地を城にセットしてウェンディが操縦を始めた。
飛ぶまでは助走がいるという爺さんの話で、加速できる道まで出てきた。
T字路の下からぐんぐんと加速を始めるタクシー。
「飛べ!! 飛べ!!」
と俺達は期待のこもった声で叫んでいた。
突き当たりの教会にぶつかろうかというその瞬間、俺達を乗せたタクシーはふわりと中に浮いた。
「おぉ、浮いたぞオイ」
「とりあえず右にハンドル切れ、危ないから!!」
教会のステンドグラスをぶち割りそうになるのをハンドルを切って交わした。
タクシーの操縦はいたって簡単だった。
オートマのギアみたいな物があって、下は1、上は4の表示だった。1は前進しない代わりに上昇が大きく、4は上昇しない代わりに前進が大きい。
それ以外は普通の車と同じ。右にハンドルを切れば右に曲がり、左にハンドルを切れば左に曲がる。
4まであげるとゆっくり下降しながら前進するので、適度にギアチェンジしながら高度を保っていさえすれば良かった。
「ロンドンは霧の町なんていわれてるけど、一定の高さのところに集まってるだけで、それを越したらむしろ快晴なのね」
などと上機嫌で運転しながらウェンディが言うと、徐々に下がっていた高度がちょうど霧の中になった。
霧の中に黒いものが現れ、どんどん密度を増していった。
「あ、現れたな、デス!!」
「デスって何だよ」
「あれが婆さんを連れて行ってしまった死神です」
爺さんは相変わらず顔をゆがませている。
「お前達が空を飛べたところで、我が城には近づけないのだよ」
言ってデスは去っていった。
デスの出現でおびえてしまったウェンディに代わって俺が操縦することになった。
しかしなかなか巧くいかない。電線に引っかかったり建物にこすったりしてしまう。
「兄ちゃん、ちょっと高度落として運転しなよ」
「慣れるまではそれがいいでしょうな」
「道路走ってる車のナンバーが見られるくらいの高さでいいんじゃないの?」
などと助手、爺さんが口々に言う。
「お前らな、これでナンバーが“D・E・A・T・H”とかだったらどうするんだよ」
(イギリスのナンバーは英字と数字の七桁です)
「それは嫌だ」
「だろ」
俺は自分の運転技術の下手さをごまかすためにそんな事をいった。
西の果てについていざ空を飛んでいくと、カーナビの画面がくるくる回る。
それにまどわされてハンドルを切ると、断崖の切っ先に戻ってきてしまう。
カーナビの画面は見てもいいが、ハンドルは固定したまま動かさないのが辿り着くための秘訣のようだ。
俺はハンドルをしっかり固定したままアクセルを踏み込んだ。車は順調に城に向かっていく。
するとカーナビの画面で、シューティングゲームで撃墜された時のように自車を表す三角が爆発し、気づくと切っ先に止まっていた。
「おいおい、なんだこりゃ」
「どうやらまだ不完全なようですね」
「全く……。どうすりゃいいんだ。一旦帰るか」
そこへ本物のタクシーが現れた。老夫婦を乗せたそのタクシーは俺達を抜かしたところで反対車線からバスがやってきたために止まってしまった。
俺達とタクシーの間が開いていないのでバスが通れないようだ。俺達か、タクシーかどちらかがバックして道を譲らないといけない。
どうせ俺達はかえる気だったので、道を譲るつもりでバックさせた。
すると後部座席から老夫婦がタクシーを降りた。黒い割烹着のようなものを着た夫婦は仲良く手をつなぎ、そのバスに乗り込んでいった。
見ればバスの中には同じような格好をした男女が乗ってた。黒い割烹着みたいなものを着ているせいで、その下にどんな格好をしているかはよく分からなかった。しかし、男はスーツ、女は普段着のような感じがした。色は黒っぽいものが多いようだった。
老夫婦を乗せたバスは横道にそれると断崖を下っていった。
俺達はおんぼろタクシーを降りた。小雨が降っていた。
「どうなってんだ?」
「あのバスに乗るためにここまできたって事?」
「あのバスはどこ行ったんだ?」
みな一様に首をかしげた。
「……城かな?」
ジョンが言った。
「あっ!!」
俺はひらめいた。
「何!?」
「喪服!! 違うな、死んでるんだから死装束だ!! あいつらは死んだ魂だ! だから黒い服で、現世の職業を隠す意味で服隠してたんだよ!!」
「なるほど、と言う事は我々も死装束を用意すれば……」
「でも死装束であのバスに乗らなきゃだめなんでしょ? 格好だけでごまかせるかな?」
鋭い指摘に一瞬沈黙が流れた。
ジョンが大声で叫んだ。
「霊柩車!!」みなが彼を見た。
「霊柩車だよ。霊柩車なら生きた人間も死んだ人間も乗ってるでしょ!!」
ジョンは杖を振り回して力説した。
「そうか、直接城に行ってもおかしくないな」
「って事は……このタクシーは霊柩車になるのか?」
見ると後部座席の天井は可変式らしく、中から押すと霊柩車っぽくなった。
「なるじゃん!!」
「あとは塗装だけだね」
俺達は塗装屋へと走りだした。
塗装屋が左手に見えてきた。
なぜか爺さんと俺以外が女になり、人数も10人にまで増えていた仲間が車の中で喜ぶと、塗装屋から黒ずくめの格好をした男達が出てきた。
「まずいな、どうやらもう手が回ってるらしい」
「どうしたらいいの?」
「仕方ない。ここはやりすごそう」
言っているそばから4人の女が塗装屋に走っていった。
「どうする!?」
「とりあえず車は走らせろ!」
「あの子達を見捨てるわけ!?」
「今全員捕まるよりましだろうが!! この場で騒ぎを起こすわけにはいかないんだ!!」
「でも……!!」
そんなやりとりの中でも車はゆっくりと塗装屋を離れていく。
後ろを振り返るとフラダンスを踊っている集団が歩道を歩いていた。その後ろで男達から逃げようとしてる仲間も見えた。
俺達の間には重い空気が流れた。
と、車をノックする女がいた。見た目はアジア系だ。
「開けるな!! 今は何事にも警戒が……」
やはり言っているそばから助手席の女がドアを開けた。
「)(’UYHJO"PK#LKE=O?」
「は?」
「)IUB#NOIKJ)U(HGIJKE?」
しきりにパンフレットを見せて何事かを言っている。中国語のようだ。
「何でもいいから早くドアを閉めろ!!」
女がドアを閉めるとフランダンスの集団が車に追いついてきた。
今度はその集団にドアをノックされる。
「無視するんだ。…っておい!?」
フラダンスの集団に女が4人まぎれていた。当然仲間だ。
ドアを開けさせて入るように指示する。
2人は何とか入ってきたが、残りの二人は手を振っている。
「何だよ!! 入ってこい!!」
「行ってって言ってるんだよ」
「ふざんけんな!! まだ間に合う!! 入れ!!」
女は目に涙を浮かべながら手を振り続けた。
距離があいてからも、さっき入ってきた2人はうつむいたままだった。俺達も何も喋らなかった。
そんな夢。
by embryo_3
| 2004-11-10 17:56
| 夢